逃避の画家

やりたいことは他にも沢山あったけれど ぼくはある日を境に、画家という仕事につく決心を固めた 白い白い大きなキャンバスという海に身投げする毎日そう、あの悲しい出来事があったその日から ぼくは1日たりとも絵筆を握らない日はない 高校3年の夏飼ってい…

逃避の小次郎

ぼやけた視界に小さな交差点がうつっている おや?交差点の向こうで真っ黒い歯を見せてにやりとしている男が、おれに手招きしている こっちこっち、 と言っているようだおれは交差点の青信号を確認しないで渡ろうとするそいつはおれが自分のほうに来るのをず…

逃避のボクサー

かさぶたがとれるまで殴り合った日々 戦いというものはどうしてこうも痛いのか? グーがものすごいスピードでやってくるそれをみつめる観客とそれを受けるわたし どのような感情をぶつけているのだあなたはわたしという敵をやっつけるふりして、じつは・・・…

逃避のフラメンコ

フラメンコシューズを買った 靴の裏にくぎが打ってあるんだ想像できるかい? これを履いたものはたとえば走ったとき、たたたたたん と激しいおとがするときどきゆっくり慎重に歩くととと・・・とんととと・・・ととんと・・と・・ととつとととん! 次第に足…

逃避のポスト

あけがた 新聞配達のおとがする みんなの家にお届けするんだどんな記事が載っているかどんな写真が載っているのかみんなが首を長くしてまっている 犬が新聞をくわえて去っていくここの家はみんな新聞を見ないで捨てるんだ そして飼い犬の掛け布団になるそれ…

逃避の海水浴

海の水があまじょっぱいまるでお昼にたべた肉団子のたれみたいだ疲れを知らないばかたれが、きょうも逃避を味わいにやってきた砂浜の温もりを足に感ずる時が水とともに流れてゆくたとえば一度目の波が海の向こうの遠い国の情勢を知らせに来るそう、さざなみ…

逃避の勉強机

宿題にとりかかろうと鉛筆をもつ上等なえんぴつだ木と鉛のにおいが合わさり、なんとなく安心する削られるがままの、忠実かつ誠実な人柄のサラリーマンのようだふでばこという小さな会社の中に収まり ひたすら使われる被雇用者、スーツの似合う、細長い長身の…

逃避の滑り台

午後の講演をさぼり 夜中の公園へひとり むしかごと、麦わら帽子と、 水筒もって勇ましく ぶらんこをしたけど、 心は揺れず、とまったまま 砂場で山をつくったけれど 足の裏で踏めばこわれてしまい ジャングルジムにのぼったけれど 沈んだ太陽 戻らずに 見晴…