逃避の滑り台

午後の講演をさぼり

夜中の公園へひとり

むしかごと、麦わら帽子と、

水筒もって勇ましく

ぶらんこをしたけど、

心は揺れず、とまったまま

砂場で山をつくったけれど

足の裏で踏めばこわれてしまい

ジャングルジムにのぼったけれど

沈んだ太陽 戻らずに

見晴らしは真っ黒 星さえいない

カラスさえもいなくって

不安定な足場ほどこわいものはなかった

ぽつんと離れた滑り台

滑走路の銀色が光っている

そこでちいさな階段のぼって

夜中の怪談 あなおそろしや

だあれもいない、はずの公園

滑り台の頂上で、

誰かが背を押したかのように想像する

人生の岐路に立っている私の重たい重たい

背中を勝手におしては引き戻し、勝手に押しては引き戻す

どうしたいのか、わからない

「滑りたい」

そう思わなければ滑れない

「登りたい」

そう思わなければ登れない

己と言う名の幽霊を背後に憑かせ

わたしという名の人間に問いかける

焦燥感、無力感、恐怖心に押しつぶされそうだ!

そのとき、

「ここにいたの」

という優しい声が後ろから聞こえた

寝間着姿にカーデガンをはおった、

老いた母

暗闇を照らす花のような笑顔

ぼくは自然と滑り台をすべり、

愛する母のもとへ降りてった

愛する母親のために、ぼくは前に進まなければならないのだ

逃避の滑り台からぼくを救ってくれた、

ぼくの愛する母のために。