逃避の海水浴

海の水があまじょっぱい

まるでお昼にたべた肉団子のたれみたいだ
疲れを知らないばかたれが、きょうも
逃避を味わいにやってきた
砂浜の温もりを足に感ずる
時が水とともに流れてゆく

たとえば一度目の波が海の向こうの
遠い国の情勢を知らせに来る
そう、さざなみだ
幸せな国の穏やかな社会と人々の心を
伝えに

二度目の波は大波だ
ひどく疲弊した人々がひどく荒んだ
社会に生きている
顔はこわばり  みんなが助けを求めてい
る  ざばんざばんとひたすら荒れゆく
冷たい音を重ねた大コーラス。
大波は突然、さあーっと、小さな音に
変わって あっというまに遠くに消えてゆく

三度目の波は普通の波
大きくなく小さくもなく
遠くもなく 近くもなく
不幸せではないが、幸福でもない
良くもなければ悪くもない、
そんな普通の国のことを知らせに、
当たり前のように、押し寄せてくる
んだ

ぼくには
他の国で起こっていることは、
わからない
心の波が知らせに来てくれないと
ぼくにはさっぱり考えることも、
感じることもないんだ
そのうえイマジネーションの時間が
奪われてしまえば
ぼくは自分の国で起こっていること
さえも 想像することができなくなって
しまうだろう

青くてみどりいろで黄色の海
もしかしたら、絵の具の海かもしれない
誰かが絵筆を洗うたびにそう、
たちまち奇妙な色に変わっていく。

夢や幻想を描きたくて、
うずうずしていて、必死に描いて
出来たものはお空の虹かもしれない
そう、空は大きな大きな画用紙になって
いて。

小鳥が海で泳ぎたがっているかもしれない   
カラスが海の魚の一匹に恋をしているかもしれない 
小魚が海の集団生活につかれて、
空を自由に飛びたがっているかも
しれない

人間が海を汚す前は、もっと透き通った
きれいな海面だったろう
空の太陽が黒点のほくろを隠すために、
おしろいを塗るときに鏡として使った
のかもしれない、いや絶対にそうなのだろう

人魚が死んでしまったとき、
お葬式をしようと提案したのは
サメだったかもしれない  
サメは自分がその鋭い歯で噛み殺したのではないか
と、鯛やさんまに責められて悲しくなっても、
ぐっとこらえたのではないだろうか
ところが人魚は人間か?魚か?
と、考えれば埋葬のしかたは変わって
くる

そんなことを考えていたら、
雨がふってきた
大海を見渡す人間が自分だけになって
いた
サーフボードも船もなんにもみえない
みえるのは・・・
大海の表面に広がる雨粒の波紋!
雨は次から次へとおちていく
嬉しそうにおちていく
落ちたところが  海でよかった
そう言っているかのように
海は雨をなんとも思わない
それどころか、歓迎しているように
見える
雨が永久にふりつづけても
海はきっと受け入れるのだ
地球上の出来事は  全て海が受け止める
人間はそのような海に  
自然の上に立とうとしてはいけないのだ

夜の星が海と無言の会話をしている
人間は海に背をむけて
ぼくもようやく家路にむかった